晴耕雨読でPhilosphiaなスローライフを目指して

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雑記:NTT研究所・インターン体験談

はじめに

先日,NTT厚木研究開発センターにて,2週間の研究インターンに参加した。普段はこのブログを「日常のエモさ」の言語化と思考の整理に使っていたけれども,たまには需要がありそうな?話題を取り上げてみる。

なお「体験談」と銘打っている通り,記事内容の一切は,私の眼を通して見た「解釈」が多分に入っていることを十分にご留意いただいた上でお読みいただきたい。今後,NTT研究所のインターンシップ等に参加する方や,就職先として気になっている方の参考になれば幸いである。「立地・生活環境」以降が,本質的な体験談なので,お急ぎの方はそこから読んでいただくのが良いと思う。

NTT研究所とは?

NTTデータNTTコミュニケーションズNTTドコモ...。NTTを冠した会社がいくつあるか把握しきれていないが,NTTの研究所(http://www.ntt.co.jp/RD/organization/lab.html)はその名の通り,研究開発を担う人々が集う場所である。さらに研究所といっても,物性,量子コンピュータ,ネットワーク・セキュリティ,ヒューマンインタフェース,心理学など,扱う分野は多岐にわたる。東大の応用物理系(物理工学科・計数工学科)の規模を十倍くらいに引き伸ばして,一部に心理学方面の研究者が加わって一つの研究組織になっているのをイメージだろうか。

毎年1-2回程度,R&Dフォーラム(https://labevent.ecl.ntt.co.jp/)が催され,面白い研究たちが武蔵野の研究開発センターに一堂に会する。私も昨年11月のR&Dフォーラムに参加したが,錯視を利用したプロジェクションの研究*1や,オリンピックを見据えたスポーツ放映に関する研究*2など,ワクワクするものが盛りだくさんで一日遊べてしまった。

NTT厚木研究所の立ち位置

厚木の研究所では,量子光学系の研究(物性科学基礎研究所*3)やユーザインタフェース系,音声信号処理の研究(コミュニケーション基礎科学研究所:*4)が行われている。関東圏だと,横須賀と武蔵野に研究所があるが,厚木の研究所は他の研究所よりも基礎的な研究を行なっているという。担当していただいた社員さん曰く「横須賀や武蔵野の研究は,半年後,一年後に応用できそうな話題に取り組むけれど,厚木は5年から10年スパンを見据えた研究をやっているから,そういう意味では大学に近いかもね。」とのこと。実際,各部屋の前にポスターが掲示されているのだが,「この研究と近いこと,東大の--先生がやっていたよな。」とか「出ている学会,普通に知っているのだが」など,国際学会や論文誌にも積極的に出しつつ,会社のお金で研究をやる研究所のようだ。

 

生活環境と研究環境

交通と立地

厚木研究所の立地はGoogle Map*5で見ていただくとわかるのだが,あたり一体山の中で基本的に何もない場所()である。冬なので幸いにして?巡り合わなかったが,鹿や猿はそこそこの頻度で現れるという。

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とある研究所から臨む風景

また,隣のバス停が日産の先端研だったり,本厚木駅の反対側にソニーの関連研究所があったり,この一体が企業の研究城下町になっている場所でもある。

アクセスは,本厚木駅からバスで20-30分程度,都心から通おうとすると,車で1-1.5時間,電車で1.5-2時間である。私の場合はアクセスが悪く,小田急快速急行に乗れても1.5時間くらいかかったので,駅近くのウィークリーマンションに宿を取ってもらった。

担当していただいた社員さんは,若い頃は独身寮,その後車で10分くらいの厚木市内の物件に移り,今は都内から車で1時間程度で通っているという。

裁量労働制と在外勤務

「何かしら結果が出ればOK」の裁量労働制を取っている上,月7日まで在外勤務(会社に出勤せず外で勤務する)が認められているので,働き方改革など待たずとも相当自由な働き方が許されているようだ。「子どもの体調が悪いから」と午前中は奥さんが,午後は旦那さんが交代で在外勤務や有給を取ることもあったという。社員さんは9:00ごろだと高速が混むので,10:00ごろに出勤しているという。

ただ,裁量労働制なので残業という概念があまりない。大学の研究室さながら,結構遅くまで残る人が多い。ただ,7:00 - 22:00が研究所の門限で,徹夜で泊まり込みは「基本的には」NGという。ただ徹夜で実験している人もいるらしいので,申請すればできないことはないよう。

実際,インターン中も「あ,これは今日の夜中,僕がやれる時にやっておくよ」と言われ,研究室の助教さんとの会話のデジャブを感じた。インターン生も「早く帰れ」と急かされることなく,22時ギリギリまで残ることもあった。「定時退社」という概念が希薄なので,良し悪しというよりも,合うか合わないかの問題な気がする。

社員の雰囲気

限りなく大学に近いので,良くも悪くも「社会性」が求められない。大学の研究室と同じく,ミーティングがあり,グループ内で研究報告をしてそれに対するディスカッションの機会が週1回設けられているようだが,「先輩も上司も構わずタメ口を聞く」方もいる*6ようで,他社のように「社会性」を求められるよりも,「研究者としての適正」を見られるようで,研究が肌に合っている人には向いているかもしれない。

私の担当をしていただいた社員さんも,結構マニアックな研究を20年くらいなさっている方で,結果が出たら適宜ディスカッションをさせて貰ったが,「このデータってどういう根拠で出ているの?」「このパラメータは,どうして選んだの?」とか,大学の教員とディスカッションをしているのと同じ雰囲気を感じた。

食事関連

私の行った研究所には,中にセブンイレブンが入っているのと,B1Fと1Fにそれぞれ食堂がある。B1Fの食堂は大学の食堂と値段,味ともほぼ変わらない。パスタは少し美味しかったけれど。1Fは接待用で用いられるというが,700-800円くらいで日替わりでトンカツや鉄板焼きを食べ,ソフトドリンクが飲み放題なので,プチ贅沢をしたい時には使そうである。鉄板焼きをいただいたが,普通に大学近くの外のお店で食べるより美味しかった笑。ただし,食堂はどちらも昼時以外は空いていない(?)らしい。

それ以外の徒歩圏内に店という店がなく,もし外で食べたい場合は車かバスで出る必要がある*7。午前中,研究所に来たら,夜帰るまで基本的には所内で過ごすことになりそうなので,グルメ好きには少し物足りないラインナップかもしれない。

研究環境

大学の小さな研究室と比べると,新入社員にも予算の裁量権は大きく与えられているようで,新人2年目で数百万円の機材を入れてもらった事例もあるという。ただ,規模が大きいので,申請書類等の事務手続きはそこそこ煩雑であるのと,上司を説得できないと大きな予算は使えないので,自身で申請して科研費を取って来た場合*8よりも執行権は得づらい場合が多いかもしれない。

事務専業や知財・特許関連の担当者がおり,大学教員ほど日々の雑務に追われることは少ないので,「純粋に研究をし続けたい」という人には,穴場なのかもしれない。ただ,一民間企業ではあるので,「企業を説得できるだけの研究意義」を持っている必要はあるだろうが*9

中の人のキャリア

研究所では修士以上しか募集をしていないが,学歴は修士が8割,博士が2割程度という。修士で研究所に入った場合は,研究所内での配属を(専攻や希望を考慮してはもらえるものの)選ぶことはできない。博士で入ると,自身の研究成果を踏まえてマッチングをとっていくという。博士で入ると,修士で入るよりも1ランク昇級したところから始まるため,修士卒はその1ランク分を埋める必要がある。また,修士で入った大半が,共同研究先や修士まで所属したラボに社会人博士として赴いて,博士を取るという。以前は,一部お金が支給されていたらしいが,今はその制度はなくなったとのこと。ただ,会社で給与をもらいながら取得が可能なので,「お金をもらいながら博士を取る」ことはできるようである。実際,私のラボの先輩が一人いた(修士卒で入社し,今はラボ所属時代とは別テーマをやっている)が,来年から社会人博士として博士号取得を目指すという。

研究所インターンのススメ

NTT研究所では,修士・博士の学生を対象に,適宜インターンを募集しているという。基本的に各部署ごと「受け入れたい人数」を出してマッチングを取るシステムで,私の時は面接はなく書類一本で通された。書類に「自身のスキル」として,情報系であればプログラミングスキルがそこそこ求められるので,何がしか制作経験や実装経験が述べられた方が良いかもしれない。

1週間〜2ヶ月程度,特定のプロジェクトに所属し,研究の一端をやる。無給なのが長期になると手痛い*10が,企業で一番基礎的な研究かつ広範な分野をカバーしている研究所だと思うので,興味がある方は応募してみると良いかもしれない。実際,この後私の2週間の成果も含める形で学会発表を目指して,連名で載せていただける?と聞いたので,テーマや担当の社員さんによっては多少の業績アップにも繋がるかもしれない。

おわりに

2週間という短い間であったが,普段の研究とちょっと違うテーマだったというのと,2週間である程度成果が出せるテーマだったので,「研究の面白さ」の部分を思い出す機会になった。気分転換がてら覗きに行くのも良いかもしれない。実際,やっているテーマはどれも面白そうだった笑

どちらにしろ博士は取らないとダメそうだという大きな気づきを得たので,大学で取るか,研究所などに就職してとるかは別にして,いくつかの分野に散逸している「やりたいこと」をうまく言語化して集積していこうと思う。学会への投稿を終えたら,論文を読み漁って,自分の研究も進めつつ,読書とか美術館巡りとか街歩きしたりとかもしつつ,「自分の研究の"research map"」を見定めていきたい。

追伸

次回予告?として,厚木グルメを投稿してみる。

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厚木グルメ(ラーメン / 地ビール

*1:変幻灯:https://labevent.ecl.ntt.co.jp/forum2018a/info/exhibit1/detail/A09.html

*2:https://labevent.ecl.ntt.co.jp/forum2018a/info/exhibit1/detail/A05.html

*3:http://www.brl.ntt.co.jp/J/index.html

*4:http://www.kecl.ntt.co.jp/rps/index.html

*5:https://goo.gl/maps/RM26K4AGzwM2

*6:「社会性」の軸からみると落とされそうだが,この会社は「なぜだか優秀な人を集めている」という。人事チームがどういう風を感じているのかはよくわからないが。

*7:厚木名物のシロコロホルモン,高座豚という神奈川のブランド豚を使ったハンバーグなど,色々なところに食べに行けたので,「グルメ巡り」としては結構楽しかった。多分,別ページで載せる。

*8:社員の中には自由に使える予算が欲しいと,出す人もいるという。大学の研究者からかなり煙たがられるらしいが。

*9:それは大学で予算を取りに行く時もそうな気がするが,「面白い」だけではなく「ビジネスになる」という観点がある程度入ってくるのが違いかもしれない。

*10:といいつつ社員さんに厚木グルメを奢って貰ったりしたので,「人の金で肉を食う」くらいはできるかもしれない?