晴耕雨読でPhilosphiaなスローライフを目指して

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私の平成史 〜余は如何にして情報学徒となりし乎〜

平成の終わりに 〜ヒューマンスケールとしての元号

平成31年4月30日.明日から令和がはじまる.私は今大学院生であることから察される通り,平成の初めの方の生まれであるため,昭和から平成に移り変わる瞬間を見ていない.あの時は天皇陛下昭和天皇)の体調が逐一報道され,崩御なさると通夜モードの中平成を始めたと聞くが,今回は,今上天皇生前退位なさることで,新元号の発表がInstagramTwitterで中継されたり,号外が飛ぶようにはけたりと,何かとお祝いムードになっている.

西暦以外の暦を使う文化は,台湾(中華民国暦)や古くは中国でも使われていたというが,台湾は「建国から何年」という数え方をしていることもあり,天皇の退位に伴って「元号」が変わるという文化は日本に独特なものだろう*1.とかく明治以降の元号は,天皇の交代によって変わっていくため,元号はヒューマンスケールを持った暦である.「平成」「昭和」「大正」「明治」それぞれの時代が,人間的な長さで,人間的な性格を持って進行してきた.昭和の人,平成の人という区分けが良くも悪くもなされ,概ね30-40年程度のスパンで進行するため,「世代」の区分けとしては非常に手頃になるだろうと考えられる*2.一方,西暦でミレニアム世代という区分けがあったが,あれは2000年の節目が来たからで,そこから何年区切りに分けて行けば良いのかは,正直よくわからない.

非人間的な=客観的な軸が求められる公文書や免許証にこれらを併記するかの議論はさておき,人間を扱う研究をやっている身からすると,「元号」の独特な文化は,純粋に興味深い.

はじめに

さて,前置きが長くなったが,平成の区切りに際して,少し自分の過去をまとめておきたいと思う.私自身が,これから少なくとも数年は「情報学徒(人間学徒)」として生きていくにあたり,なぜここに辿り着いたかのセーブポイントになるだろう.

結論から言うと,私は高校時代までは「化学者」を志し,大学学部時代は「物理学者」を志していたが,今の専攻は「情報理工学」という分野にいる.それぞれ道を変えていくきっかけがあったので,後学のため,自分自身のためにも一度整理しておくことにする.

小学校時代 〜自由研究と実験工房,科学への憧れ〜

私は, 父母ともかなり教育熱心である家庭に生まれたため,ピアノや水泳など様々な習い事に通わされた.週の半分以上はそれで埋まっていたという,弊学にそこそこいそうなタイプの少年な訳である.

特に独特だと感じたのは,自由研究に関する親の熱の入れ方であろう.私自身がやった自由研究を振り返ると,

  • 1年 色変わりの科学:酸とアルカリを紫キャベツ液やBTB液で調査
  • 2年 火星大接近:2003年の火星大接近に関連して,父の望遠鏡を使った観測調査( https://www.astroarts.co.jp/special/2003mars/introduction-j.html
  • 3年 ゴミ処分場の見学とゴミ問題の調査:夏休みにたまたま処分場見学に行けたので,それのまとめとリサイクルやゴミ問題で今何が問題なのかの調査
  • 4年 結晶の研究:ミョウバンや塩の結晶作りと顕微鏡での観察
  • 5年 電磁石と電磁誘導:コイルの巻き数や鉄心を入れる実験.クリップモータや簡単なモータ,電子回路を自作.
  • 6年 DNAの研究:DNAの抽出実験をブロッコリー等で.DNAーRNAの話など理論メイン.

と,かなり豪華なラインナップをやらせてもらった*3.当時は,母(某大文学部卒)が熱心に文献を調べ,それを私が聞きつつ学びつつという感じであったが,何より今でも役立っているのが,小学生当時から「動機・目的->背景->予想・仮説->実験->考察->結論」といういわゆる科学論文のお作法を叩き込まれたことにある.実際,自分で仮説を立てて,なぜそうなるかの根拠を考えつつ検証していくプロセスがすごく楽しかったので,小学校の卒業文集には「化学者」と将来の夢を記している.

また,設立当初の未来館実験工房に月1くらいで参加し,導電性プラスチックでノーベル化学賞を受賞した白川博士の講座を受けたり,レゴのマインドストームでロボットを作ったり,何かと親に連れられて,足繁く通ったものである.

中高時代 〜化学部と研究の始まり,化学への興味〜

中高は,都内の某中高一貫校に通い,中1こそ帰宅部*4だったけれども,中2で友人に化学部に誘われて入り,以後高3の夏まで続けることになる.

最初は,「時計反応」と呼ばれる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%82%E8%A8%88%E5%8F%8D%E5%BF%9C),何年か前にBZ反応の発見で水戸の方の高校生が話題になっていたものと似たものを扱って,分量によって反応時間がどのように変わるかの計測をひたすら行なっていた.文化祭の実験のために,最適な分量を探索していたのだが,このひたすらトライしてみる下積み期間のおかげか,「探究」の欲が掻き立てられることになる.

中3以降は,顧問と相談しつつ,「アセトアミノフェン」という,某風邪薬に多く含まれる成分*5について,中等教育のレベルでどう合成できるかについて研究を進めていた.

結果的に,「フェノール ->p-ニトロフェノール->p-アミノフェノール->アセトアミノフェン」という既存の合成経路は,中高レベルでもある程度なんとかなることと,水蒸気蒸留というわりかし独特な実験を取り入れることができるとして,教育現場でも入れたら面白いのでは,という話までは持って行けた.最後の年は,「染料から医薬品」として,アゾ染料からアセトアミノフェンを作るところにもトライしたが,こちらはアゾ染料のN-Nの結合を切るのに苦労して,なかなかうまくいかなかった.

同時に,化学グランプリに出場させていただいたりもして,代表候補に選ばれたり,とある年には大賞を取らせていただいたりという経験をする中で,「化学者」という道を強く意識するようになった.

のちに全てをひっくり返すことになるし,今周りの友人に言っても信じてもらえないのだろうが,この時は東大に入ったら「理学部化学科」の一択しかないと思っていたのである.

大学学部前期 〜SCとの出会い,物理に魅せられて〜

無事,現役で東大に入ることができ,東大CAST(https://ut-cast.net/)という団体に所属することになる.「科学の面白さを多くの人に伝えたい」というモチベーション,私自身高校時代に東大の五月祭を訪れた際に,活動内容を多少知っていたこともあり,加入をした.以後,かなりのプロジェクトを手がけたり,事務方であれこれやったりするわけである(SC関連の話は別口で書きます^^).

一方,東大の駒場・教養課程における化学の授業は,

  • 基礎現代化学:先生が好きなことを話す謎講義.
  • 構造化学:量子化学の入り部分.水素原子のスペクトルの話とか.
  • 物性化学:金属の錯体の話やその色の話.

の3つがあるのだが,正直申し上げると(もともと知っている知識が多かったというのもあるが),あまり魅力を感じるものではなかった.

比して,物理の授業は,主には

あたりがあるが,これが高校までのふわふわした議論が,綺麗に整理されていくのが非常に気持ちよかった.熱力学の福島先生*6,振動・波動論の加藤先生*7解析力学の加藤先生*8統計力学の堀田先生*9など,先生に恵まれたのが大きいかもしれない.

特に,高校時代,化学をやっていた人間からすると,統計力学の「ミクロのランダムな分子運動を統計学の力を借りて,マクロでは熱力学的な物理量がほぼ揺らぎなく定まる!」というカッコ良さが本当に好きになってしまい,物理側へと心を動かすことになる.

そして,理学部物理学科と工学部物理工学科を悩んだが,サークルから引っ張ってきた「ものづくり=工学(Engineering)」への憧れと,素粒子・宇宙よりは物質っぽい話をやりたいというモチベーションから,物工を選ぶことになる*10

大学学部後期 〜科学哲学の衝撃,人間への興味〜

東大の物理工学科は,「応用物理系」というカテゴリに属し,元を一にする計数工学科と授業を一緒に展開している.おかげで,数学系や情報系の授業にも多数触れることができるのだ.だが裏を返せば,浮気心の多い人にとっては,「こっちも面白そう〜!」と心が動きかねない.僕もその一人だった.

そもそも,化学を軸にした「科学(サイエンス)」で生きてきた人間が,ものづくりに憧れてきたのだから,モノを作っている感じの人たちの講義に憧れを抱かないわけがない.中でも面白かったのは,

  • 制御論:プラント制御やシステムの制御を数学的に扱う.Engineeringを数学的に考えていくプロセスとか,すでに退官なさった原先生のキャラがめちゃめちゃ面白かった.
  • 認識行動システム論:人間を「システム」として捉えるVR(稲見先生)と,ロボットのシステム論(渡辺先生)が同じ講義に詰め込まれているのが楽しい.どちらも俯瞰できるのは,計数のシステム工学ならではの視点.

である.これらの講義が「工学(Engneering)」への興味をさらに高めていくことになる.

一方で,私はその頃,「SCってなんのためにやるんだ?」という問いにぶつかっていた.CASTのSC自体はそれはそれで魅力的なのだが,そもそも「科学」の何を伝えていけば良いのかに悩み始めていた.そんな時に,石原先生*11の科学哲学の授業に出会った.科学哲学とは,まさに「科学とは何か?」を考えてきた巨人たちの思考をさらい,私たちが今直面している原発問題や地球温暖化などの問題を考える糸口をつかもう,という学問である.*12 私自身は,そこである種の科学神話をぶち壊された.今まで,科学を信奉し,「科学を信じていれば未来は明るい」とすら思っていたが,科学とは相当に人間的な営みであることを突きつけられた.誤謬をできるだけ取り除き,精緻で客観的な理論を組み立てるために,ピアレビューや学会といった制度が出てきているが,一方でその制度も多分に人間的であることから,絶対公平の中立はありえない,そんな議論は,私自身の「科学とは何か?」というモヤモヤした考えに,勢いよく突き刺さってきた.

さらに,私の物工の友人も述べていたが,「自然は美しい方程式からなる」のではなく,「美しい方程式は,人間が見たいように自然を見た結果生まれたものだ」というのが正しい理解だろうが,その理解に至ったのもこの時期である.物理の本を読み進めていくと,式が徐々に複雑になっていくが,それは「人間が今まで無視していた効果=見ないようにしてきた効果」が気になると,その効果を加えた議論をして,自然と複雑になっていく.「見たいように見る」というのは,物理の用語では「近似」という.物理学者は,この近似をいかにできるか,世界をいかに単純化しつつ有効な情報を得ていくかのセンスが問われる,という話をある先生から伺ったが,まさにそのような「近似」の世界なのである.

「自然は美しい.その美しさを知るのが科学の営み」と思っていたある種の憧れが私の中で音を立てて崩れ落ちた.私はどの学問を軸に生きていけば良いのか,SCの文脈から始まった問いは,私の学問観まで問い直させることになった.

その中で魅力的に映ってきたのが,システム工学の一部の研究室が扱っている「人間」である.応用物理的な観点を持ちつつ,「人間」を扱おうとする研究は,「今まで人間が積み上げてきた哲学を実験的に明らかにできる学問」としての魅力を持ったのである.学問自体が人間的な営みなら,人間自体を扱う学問は,それら学問の営み自体についても考えていけるのではないか,その「メタ学問」的な側面にも興味を持ったのかもしれない.

私自身,もともと哲学が好きだったり,本を読むのが好きだったり,考えるのが好きな人間でもあるので,この研究分野で自分自身がモヤモヤ考えてきたものが,少しずつ晴れてくるのではないか,という期待もあって,進学の第一候補に躍り出たのである.

結局,4年の6月,出願直前まで悩むことになるが,情報理工学系のシステム情報学専攻(計数システムの大学院ver)一本に絞り,結果今の研究室に所属しているわけである.

タイトルに,「余は如何にして情報学徒となりし乎」と書いたが,私自身は「余は如何にして人間学となりし乎」の方が適切な気がする.私自身の興味はあくまで,人間の知覚や認知,社会や集団の生成,コミュニケーション,人工物の「創造」など,人間的営みがどのようなプロセスで生まれてくるかを理解することにあると思うので*13

おわりに

今回は,本流としての「学問の探究」の道をどのように選んできたか,について書き連ねてみた.私自身,効率よく生きている方ではないので,なんだかんだ迷いに迷って今この立場にいるわけだが,少なくともしばらくは自分自身の興味が尽きていないことから,この分野でやっていこうかな,と思っている今日この頃である.

別の機会(おそらく五月祭後?)に,副流としてSC・教育関連の「実践の探究」の履歴を,科学哲学や博物館教育学なども交えて,元号またぎにはなるが,書き留めて見ようと思う.

*1:素人発言なので,他に採用している国があったらごめんなさい

*2:大正天皇が若くして崩御し「昭和」が長かったため一概には言えないが,それも含めた揺らぎが,ある種人間的なのかもしれない.

*3:まだ設立して何年めかの未来館の自由研究コンテストに応募し,何かを受賞して,毛利衛館長と握手した覚えがある笑

*4:音楽部に入っていたが,年2回程度のコンサート以外は自主練であるため,そこまで真面目でなかった僕は,実質帰宅部になっていた

*5:風邪薬の成分としては,アスピリンアセトアミノフェンイブプロフェンが代表的であり,このうちアセトアミノフェンは,アスピリン喘息のような副作用が少ないとして,よく使用されている.「カロナール錠」(https://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063312.pdf)を薬局で処方されたことがある人は,まさにその有効成分がアセトアミノフェンである.

*6:http://www.dbs.c.u-tokyo.ac.jp/labo/c_koji_fukushima.html

*7:http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/research/faculty/list/mds/mds-bs/f002571.html

*8:http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/research/faculty/list/mds/mds-bs/f002570.html

*9:http://www.dbs.c.u-tokyo.ac.jp/labo/c_chisa_hotta.html

*10:物工と情報理工への進学のススメに関しては,どこかの機会にもう少し詳しく書いてみることにするのでしばしお待ちを^^

*11:http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/research/faculty/list/mds/mds-bs/f002557.html

*12:科学哲学に関しても,どこかでまとめるつもりではいるのでしばし?お待ちを^^

*13:ただそれらの思考やコンセプトを「研究」という形に落とし込むのはなかなか難しく,今手がつけやすいところから自分のペースで進めていっている.