晴耕雨読でPhilosphiaなスローライフを目指して

日々を,感じ考えるままに書き留めてみる。一部noteに移動しています

「書き方」からみる、政党政策比較(1) 外交・安全保障

はじめに

7年8ヶ月の長期政権となった安倍首相が昨日,辞任の意向を述べた.同時に,次期総裁(いわゆる「ポスト安倍」)が誰になるか,という議論や様々な憶測が飛び交っている.一方,野党を見ると,立憲民主党と国民民主党の大部分の議員を始め,旧民主党系の議員が再結集する動きが見られる.秋解散の言葉もささやかれるようになり,近いうちに選挙投票する機会も巡ってくるかもしれない.

その中で,今まで自分は「党の政策」というのをしっかり見てきた訳ではなかった.このタイミングで,政策比較をしていくのも良い機会だろう.しかしながら,「政策の比較」というのは,どうしても思想信条が入ってしまい,色眼鏡で見てしまう.どうしたものか.

政策は中身が大事だ」というが,その中身とはなんだろうか?私自身は,実現可能性がある的確な目標と,到達するための可能な限り具体的な計画の2点であると考える.平たく言えば,何を,どうやって実現していくか,というのが政策を論じる上で必要になるだろう.この観点は,以前私が学振*1に応募する際,研究計画を書く上でアドバイスいただいた,「***を用いて%%%を実現する」という構文でも登場し,おそらくあらゆる計画書に通じる観点だと思われる. 

今回は,この「書き方」の視点から政策を比較していく.何を,どうやって実現していくか,というところが,具体的かつ明確に描かれているか.それを比較しながら,党の立場や内容についても検討していければと思う.

本来は,主要政党(自民・公明・立憲・国民・維新・共産・社民・れいわ)くらいはやってみた方が包括的な記事になるのだろうが,ひとまず,試しに与党・自民党と野党・立憲民主党の2政党を比較していくことにする.

比較のやり方 

この比較では,自民・立憲両党が持つWebページの「政策」に記載されている内容を扱う.現代の党の顔とも言えるのが,やはりこのWebページだろう.自民党は,重点政策として6つhttps://www.jimin.jp/policy/立憲民主党は立憲ビジョン2019として5つhttps://cdp-japan.jp/policies/visions)を掲げている.これらをテーマ別にわけて,各々の外交・安全保障,教育,エネルギーなどの政策の「書き方」を比較していく.さらに,Webページには,自民党は「政策パンフレット」,立憲民主党は「基本政策」のWebページと「立憲民主党基本政策」としてpdfが公開されているが,これらの追加資料については,あえて検討から除外する.というのも,各党の政策を比較する上で,pdfを読み込むまで比較する人は有権者のごく一部であるし,大多数はWebページの"表"に書かれた政策同士をみながら,目についたものをみていく,というような流れをとるだろうからである.つまり,追加資料はほとんどの有権者には読まれないと考えられ,”党の政策の顔”として比較すべきは,やはりWebページに簡潔にまとめられている記述だろう.なので,「追加資料にはちゃんと記載してある」「ちゃんと政策を聞けばこういうことを言っている」という批判は下記の分析には当たらないことに留意していただきたい.

同時に,非常に重要なことだが,「私自身の思想・信条や背景の問題,政策の賛否」は分析から可能な限り除外し,字面のみを追っていることに注意していただきたい.例えば,自民党政策1-1に出てくる「国民」は,日本国民なのか,在外国民も含むのか,あるいは外国人労働者などの扱いはどうなるのか,という問題をはらむ言葉ではある.しかし,ここでは,そのような背景問題は取り扱わず,あくまで記述の上で明快かどうかを判断するに止める.

自民党立憲民主党(以下,一部で立民党と略す)で政策の書き方や分け方が異なるが,以下では,概ね以下のような5項目で比較していく.分析結果をわかりやすくするため,各項目20点ずつ,計100点として,「書き方」の観点から独自に採点する.

さらに,比較項目をわかりやすくするため.次のルールに従って,色文字を用いる

赤:実現可能性がある的確な目標

青:到達するための可能な限り具体的な計画

両者とも色が濃いほど具体的であり,色が薄いほど抽象的・曖昧であるという意味で用いる.なお,5点満点の場合,5 - 3 - 1という程度の配分を想定しており,各政策が主張される文章の読点ごとに,上記の項目を加味して評価する.[]内には,P(Plan)とT(Traget)で5点満点の数値を記載する.その上で,PとTの比率を1:1として,各文に対する点数をつける.

例えば,自民党の「力強い外交・防衛」の1番目に掲げられる政策は次のように色づけされる.

日米同盟をより一層強固にし(4)ゆるぎない防衛力を整備することで(2.5)国民の命や平和な暮らし(3)領土・領海・領空を守り抜きます(4)

 

1. 外交・安全保障

 自民党:「力強い外交・防衛で国益を守る」

 立民党:「外交・安全保障ビジョン 平和を守る現実的な外交へ」

2. 経済・産業

 自民党:「強い経済で所得をふやす」

 立民党:「ボトムアップ経済ビジョン 暮しからはじまる経済成長へ」

3. エネルギー・環境・災害対策

 自民党:「災害から命・暮らしを守る」

 立民党:「エネルギー・環境ビジョン 原発ゼロを実現し新エネ・環境立国へ」

4. 政治

 自民党:「憲法改正を目指す」

 立民党:「参加民主主義ビジョン 透明性の高い『まっとうな政治』へ」

5. 暮らし

 自民党:「人生100年社会をつくる」

 立民党:「多様性ビジョン 個人の可能性が芽吹く社会へ」

 

なお,自民党が提案している「最先端をいく元気な地方をつくる(地方創生)」は,立憲側に対応する項目がないので,今回の比較からは除外する.

重ねるが,下記でつけた点数は「内容」に対する点数ではなく「書き方」に対する点数であることに注意していただきたい.

 

1. 外交・安全保障(自民:14 点,立民:12.6 点 / 20点)

自民党

(a) 日米同盟をより一層強固にし(4)ゆるぎない防衛力を整備することで(2.5)国民の命や平和な暮らし(4)領土・領海・領空を守り抜きます(4.5)

(b) 米国、豪州、インド、ASEAN、欧州など普遍的価値を共有する国々との連携を強化し(4)「自由で開かれたインド太平洋」を実現します(3)

(c) 米国はじめ国際社会と緊密に連携し(4)北朝鮮の核・ミサイルの完全な放棄を迫るとともに(5)最も重要な拉致被害者全員の帰国を目指します(5)[プラン記載薄弱]

(d) ロシアとは領土問題を解決し(4)日露平和条約の締結を目指します (5)

中国等の近隣諸国とはわが国の国益を十分踏まえた外交を展開し(4)戦後日本外交を新たなステージに導きます(1)[プラン記載なし]

 

計 14 / 20点

(a) 3.75 / 5

・「日米同盟をより一層強固に」は,日米同盟という明確なプランを据えている点で評価できる.「より一層」がどこまで強化するかは曖昧 [P/4]

・「防衛力を整備すること」はおそらく自衛隊を指しているのだろうが,表現が具体的でない.特に「ゆるぎない」は曖昧さを助長 [P/2.5]

・「国民の命や平和な暮らし」の前半部は概ね明快だが,後半部の「平和な暮らし」は何をもって平和だといえるかという点で曖昧な表現 [T/4]

・「領土・領空・領海」は明快だが,「守り抜く」の部分はどのレベルが守り抜くことであるのかが幾分曖昧 [T/4.5]

(b) 3.75 / 5

・「米国、豪州、インド、ASEAN、欧州など」は国名を具体的に挙げており評価できる.「普遍的価値を共有する国々」は,どのような価値なのかが抽象的で曖昧 [P/4]

・「自由で開かれた」は達成目標が曖昧.「インド太平洋」は具体的な地域を挙げているが,前者の曖昧さを大きくとった.[T/3.5]

(c) 4.125 / 5 

・「米国はじめ国際社会と」は,具体的な国名を挙げている.だが「緊密に連携し」が計画として曖昧.どのように緊密に連携していくのか [P/4]

・「北朝鮮の核・ミサイルの完全な放棄を迫る」は,達成目標が明快.[T/5]

・「拉致被害者全員の帰国を目指します」も,「拉致被害者」とされる人が,「全員」帰国したことを持って目標達成と言えるので明快.[T/5]

・しかし,上記の帰国を目指すプランが書かれていない.緊密に連携するだけでは,帰国の達成は難しいのではないか.この点で,計画の部分が曖昧 [P/2.5]

(d) 2.375 / 5

・達成目標のためのプランの記載がない.どのように「領土問題を解決する」のか.どのように「わが国の国益を十分踏まえた外交」をするのか.その方向性や具体的な計画が全くこの文では述べられていない.[P/1]

・「ロシアとは領土問題を解決し」は目標が明快だが,「解決」をどこに置くかがやや曖昧.「日露平和条約の締結」も明快な目標がある.[T/4.5]

・「中国等の近隣諸国とは」は具体的.後半部の「わが国の国益を十分踏まえた外交を展開し」は ,「国益を十分踏まえる」という点が曖昧.最終部の「戦後日本外交を新たなステージに導きます」は,具体的に何を「新たなステージ」と呼ぶのかが不明確.[T/3]

 

立憲民主党

立憲民主党の政策は,前半部に概要が述べられ,後半部に目標が示されている.そのため,箇条書きの部分を個々に見るのではなく,概要から読み取ることができる計画の部分も加味した上で,概要部のみ10点で採点する.(他の項目についても同様)

(概要) 憲法の理念を活かし(3)国際的な平和構築に貢献します(3)日米安全保障体制を基軸としつつ(5)国際協調と専守防衛という基本姿勢を貫きます(5)政府開発援助や研究・技術協力を通じ(5)貧困問題や気候変動問題などのグローバルな課題解決に貢献します(4)

(a)我が国周辺の安全保障環境を直視し(2)国民の生命・財産、領土・領海・領空を守ります(5)

(b)立憲主義を逸脱する安保法制は廃止します(5)[プラン記載なし]

(c)専守防衛の範囲を超えない(5)抑制的かつ効果的な防衛力整備を行います(3)[プラン記載薄弱]

(d)北朝鮮の核・ミサイル開発と拉致問題の解決に向けた交渉に着手します(3.5)[プラン記載薄弱]

(e)在日米軍基地問題については(5)地元の基地負担軽減を進め(3)日米地位協定改定を提起します(4)[プラン記載なし]

(f) 我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題の解決を図ります(3.5)[プラン記載なし]

*概要後半部に対応する箇条書き項目が存在しない.

 計 12.6 / 20 点

(概要)8.17 / 10

・「憲法の理念を活かし」は,どのように活かすのか,どのような理念かがいずれも曖昧.[P/3]

・「国際的な平和構築」は「どのような平和」を目指しているかが不明瞭 [T/3]

・「日米安全保障体制を基軸」は明瞭.[P/5]

・「国際協力と専守防衛という基本姿勢を貫く」は,専守防衛という立場を明確にしている点で明瞭.[T/5]

・「政府開発援助や研究・技術協力を通じ」は,何を通して支援していくかが明確に示されている.強いて言えば,「研究・技術協力」とはどのような強力なのかが,多少不明瞭.[P/4.5]

・「貧困問題や...」は中心とする対象は明確だが,「貢献する」が達成目標が曖昧.[T/4]

(a) 3.5 / 5

・「我が国周辺の安全保障環境」は周辺をどこまで指すのかが不明確.「直視し」は意味を解せない.何をしたら「直視した」ことになるのか.[P/2]

・後半部は明瞭.[T/5]

(b) 3.0 / 5

・「安保法制の廃止」という目標は明確.[T/5]

・だが,代替となる計画の記載がない.法制廃止自体は政権を取った時に行えばよいのだが,その代替案として,どのような安保体制が望ましいと考えるのか.[P/1]

(c) 2.5 / 5 

・「専守防衛の範囲を超えない」は基準を明確にしている.[T/5]

・「抑制的かつ効果的な防衛力整備」は,何を持って抑制的,何を持って効果的なのかが曖昧.抑制的というのは,軍縮を進めるという方向だと解されるが,効果的は,どういう形になれば効果的なのかが読めない.[T/3]

・概要部分に一部記載があるが,「防衛力整備」を行うためのプランの記載が薄弱である.[P/2]

(d) 2.75 / 5

・「北朝鮮の核・ミサイル開発と拉致問題」は問題が具体的だが,「解決」がどのような状態を解決と考えているのかが不明確.さらに,「交渉に着手」という部分は,着手した状態で,「国際的な平和構築に貢献」できるとは思えないので,論理の飛躍がある.後者を重く取る.[T/3.5]

・プラン記載が弱い.日米安全保障体制を基軸にするのだろうが,解決の交渉に着手するために,何が必要で,どこと議論をすべきか,という点が不明確 [P/2]

(e) 3.0 / 5

・「在日米軍基地問題」は,内容が明快.「地元の基地負担軽減を進め」は,具体的な目標がなく,何を持って軽減とするかが曖昧.「日米地位協定」の目標は明確だが,「改定」は具体的に何を改定するのかが不明確.[T/4]

・計画の記載がない.日米安全保障体制を基軸にするならば,どのように日米地位協定を改定し,どのように基地負担の軽減を求めるのか.[P/2]

(f) 2.25 / 5

・「我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題」は立場を明快にしている点で評価できる.だが,何を持って解決というのかが曖昧 [T/3.5]

・達成目標のためのプランの記載が全くない.ロシアとどのように交渉するかについての記載もない.[P/1]

*評価に含めないが,概要の第3文である,貧困問題や気候変動問題などの課題解決についての具体的な目標やプランの記載がない.これらを記載しないならば,第3文を入れた意義を解せない.

 

 中休み

1つの項目を比較するだけでも,ちゃんと吟味すると想定の数倍の時間がかかってしまった笑.この調子で5項目全てを比較できれば良いのだが,時間とやる気が許したタイミングで再開できればと思う.

 

*2 ~ 5の比較結果は,近日公開します.

 

*1:博士課程の学生に対して,JSTという国の機関から出る給付型の若手研究者の支援制度